ご挨拶

大学院教育学研究科 教授
田中 智志(Satoshi TANAKA)
「海洋教育」は、「海と人との共生」を基礎理念とする、初等・中等教育段階における海洋に関する教育です。それは子どもたち、そして私たちが「海とともに生きる」ために「海と親しみ、海を知る」ことであり、そこで得られる知識技能、思考力、判断力、表現力を用いて具体的に「海を守り、利用する」ことです。
「海と人との共生」という海洋教育の基礎理念は、海洋教育の具体的な目標・意義に通底する基本的な前提です。海洋教育の具体的な目標・意義は、①海に関する災害の予防、②海洋という国土の保全、③海洋資源の利用活用、④海洋産業(水産業)の育成、⑤海洋環境の整備・海洋生態系の保全、⑥海洋に関する文化・芸術の育成です。これら海洋教育の六つの目標・意義は、そのまま海洋教育のカリキュラム領域といえるでしょう
しかし、世界の種々の現状を考えるとき、より重点的な方向性を示すべきと考えます。そこで、私たちは三つのキーワードを挙げることにしました。「環境・生命・安全」です。海洋は、私たちを支え、私たちが享受する環境であり、さまざまないのちがつながり、満ちる生命圏であるとともに、私たちすべての生存を左右するエレメントでもあります。海を利用活用するさいにも、何よりもまずそれを公共財(レス・プブリカ)として扱うべきであると考えます。こうした海洋教育は、私たちすべての希望を生みだすでしょう。

大学院理学系研究科 教授
茅根 創(Hajime KAYANNE)
海洋教育センターのミッションは、初等中等教育における海洋教育を促進することです。初等中等教育における海洋教育の促進とは、教科を離れてひととき海の魅力を知る機会を与えることでも、一握りの海洋研究者を育てることでもありません。1千万人の小中学校の児童生徒、300万人の高校生に等しく教えるべき教育内容を精選し、さらに100万人の教員の方々にカリキュラムを用意しなければなりません。
このミッションは、平成29年の小学校・中学校学習指導要領の改訂で、海洋教育の充実が謳われたことによって、一部達成されました。しかし改訂は、社会科の主に領土・領海の記述の充実であり、私たちが目指す、生命、環境、安全という3つの柱からなる海洋教育のうち、安全の一部でしかありません。真の意味での海洋教育を、我が国のすべての学校で実現していくために、私たち海洋学の専門家と教育学の専門家が、現場の教員と協働して引き続き活動してまいります。